いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2017.07.24

自己肯定感の育成

学校が夏休みに入るとキャンプや合宿研修などが始まる。今年もフロリダ英語研修、バイブルキャンプなどが始まったのを契機に宿泊行事が続いていく。生徒たちが皆、本当に良い体験をし、体験を通して自分の内なる世界を広げてほしいと切に祈っている。体験を通しての気づきは、自分に対する肯定的な世界観を培うことに寄与する。今までの視野が広げられ、自分の持っている考えや知識が深められることで、自己存在の確かさへの気づきが与えられる。これが自己肯定感を高めていくのだろう。

 日本の中高生の自尊感情が低いと言われて久しいが、教育現場はどのように改善されてきただろうか。相変わらず評価の物差しが「学習の達成度」のみに集中し、他者との比較の中での優劣に達成感の目盛りを刻んでいるのではないだろうか。そこで自己肯定感を持ち得るのは少数に過ぎないのに、そこだけに価値を置く教育目標が語られ続けているのではないか。

 最近、卒業生たちが様々な分野で活躍していることを耳にすることが多くなった。皆愛されて育った、自己肯定感を持っていた生徒たちであったが、10年、20年、30年の年月を経て、自分の求めた道を歩みつつ自分らしさを開花させていることを本当に嬉しく思う。教育の分野でも、研究者として実績を上げたり、現場の教員として働いている彼女たちの姿を垣間見ることができ、改めて長い将来を見据えて自己肯定感を育てることが、教育の基本であることを再認識させられている。

 先日、日野原重明先生が亡くなられた。本校にも何度かおいでになられたが、6年前の2011年5月、震災後まもない時期に99歳であられた時に、全校生徒向けに講演をしていただいたことを昨日のように思い起こす。震災直後のことだったので余計に強く感じられたのだが、全身全霊を込めて「いのち」の尊さを生徒たちに語られた姿を鮮やかに思い起こす。先生の年齢を感じさせない迫力と気力に、谷口ホールが特別な場所になっていくように思われた。年を重ねても自己肯定感を持ち続けられた日野原先生から受けたものは非常に大きなものだった。渡辺和子さんの死とともにキリスト教教育界は大きな存在を失ったことを残念に思うが、彼らが生涯をかけて実践し示してくれた、自分の使命に生きる姿を継承していくことが、私たちに託されているのだろう。

 私たちにできることはあまりにも少ないが、せめて生徒たちが素敵な自分に気づけるために体験の場を用意し、心が動き出した時にそれに寄り添い、かけがえのないいのちを意味あるものとして用いていくための助けとなれるよう、この夏も出会いを一つひとつ大切にしていきたいと思っている。

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