いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2022.06.07

粘り強く考えることを大切に

ウクライナ情勢が日々伝えられる中、現実に戦争が起こっているせいか社会全体が落ち着かないように感じる。ネット社会の進展のせいかもしれないが、それぞれの主張が浮き足立って聞こえてくる。危機意識を強調することで「変革」を促そうとする言説が飛び交い、声高な主張にメディアの注目が集まることを知っている政治家や識者たちの勇ましい発言に困惑を感じてしまう。

3年ぶりにオンライン参加を併せて対面で行われた先日のキリスト教学校教育同盟の定時総会で、いずれも旧知である平塚敬一氏(元立教女学院理事長・中高校長)と湊晶子氏(元東京女子大学学長)のお二人の講演者からの発題があった。長い現場経験を持たれた講演者の語る一言一言に全面的に共感しながら伺うことができた。
奇しくもお二人の講演は、歴史的事実を自分と無関係ではないこととして捉え、その反省を現実の価値判断に生かし、困難に見える未来にも希望を託すという主旨の講演で、内容が共鳴しあっていた。長い人生の歩みの中で、それぞれに与えられた重荷、解決できない課題に耐え、そこから得た信念を貫き、決してニヒリズムに陥ることなく、希望を語る生き様に共感した。個人的にもそれぞれの先生との長い付き合いがあるからこそ、言葉のリアリティに頷き、自分の心に沁み渡ってくるメッセージを受け取った。
目の前の現実を歴史的視座を持って見極め、過去の経験に照らし合わせて判断を選択することは何と大切なことだろう。「今だけ、金だけ、自分だけ」という近視眼で判断しようとする世の中の在り方を根源から批判している講演だった。

今の青年たちの中に、早く結果を知りたいために映画や収録したドラマなどを倍速で見たり、結果を先に知ってから物語を読む人が多くなっているという話を聞いた。プロセスより結果を早く知りたいのだろうか、答えのわからぬ問題に耐える力(レジリエンス)が弱っているのか、早く結論を出したいという思いが強いようだ。黒か白かの二者択一を素早くすることを好むのだそうだ。そういえば幼稚園の先生からも、子どもたちが同じお話を繰り返し聞くとすぐに飽きてしまい、待つことができないという話を聞いたこともある。あの何度も繰り返す物語の面白さを味わう力が失われているのであろうか。すぐに答えが出ないと不快に思う心情が、大人にも子どもにも広がっているのではないか。

「平和をつくり出す人は幸いである」との聖書のメッセージは簡単に実現するものではないだろう。今世界を覆っている力による支配の現実に戸惑うことが多い。報道されていない差別や圧政も各地で広がっている。私たちの身近なところでも平和の実現には難しさを感じる。
しかし、戦争の惨禍を経験した世代が、戦後長い間、粘り強く語り続けてきた理念を次の世代に受け渡すことを諦めてはならないだろう。たとえ安易な解決を求めようとする風潮が強くなったとしても、私たちは決して絶望してはならない。戦争中に理不尽な扱いを受けた湊先生が語られた聖書の言葉「詮方尽くれども、望みを失わず」(途方に暮れても望みを失わない)は、昔も今も変わりなく適用すべき私たちの姿勢であることを、改めて決意させられている。

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