いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2017.08.07

新しい自分に出会う〜38年目のワークキャンプ

榛名ワークキャンプが今年も行われた。周囲の環境が変わり福祉をめぐる法令が厳しくなり、リスク管理が叫ばれる時代となり部外者が入ることへの敷居が高くなっているにも関わらず、毎年ボランティアのために宿泊施設まで用意して全面的に受け入れてくださる社会福祉法人新生会(原慶子理事長)のご厚意により、今年も3泊4日のワークキャンプを行うことができた。参加した生徒達は今年も大変刺激的な体験や出会いをすることができた。

学校も病院も福祉施設も外に対して閉じられているように思われるこの時代に、これだけオープンな「開かれた施設」は他にあるだろうか。スタッフのホスピタリティの高さと温かい眼差しの中で、入居者も明るく余生を過ごしている。そのような環境の中で人と出会う喜びを生徒達は満喫することができた。開かれた窓から爽やかな風を吸い込むように、新鮮な空気が心を満たしていった。

キャンプ3日目に春光園の夏祭りに参加した。盆踊りなどとともに、入居者と一緒に唱歌を歌うひと時があった。ここで暮らしておられるお一人一人の表情が、歌うことを通して本当に柔らかになっていくのを感じた。歌うに連れ不思議なことに、気持ちが時空を超えていく。一人一人が小学生、女学生の頃の自分に戻っていくように感じられた。育ってきた故郷の思い出、家族、友達などのことを思いながら、目の前にいる高校生達と、その当時の自分を重ね合わせて歌われていたのであろうか。参加した生徒達も、その思いを受け止めて、目線を合わせて一緒に楽しそうに歌っている姿も感動的だった。

批評家若松英輔氏の「信頼の眼差し」というエッセイの中に次のような文章がある。

「自己への信頼も、他者との信頼の間に育まれる。心を開いてくれる

 他者と出会えたとき、人は他者との間だけでなく、自己との新しい

 関係も結ぶことができる。」(若松英輔「悲しみの秘義」ナナロク社)

 このワークキャンプの体験は、生徒達にとってこのような自己発見の場になっているのだろう。開かれた場所で、異なる環境にあることなる世代に人たちの心に接することで、新しい自分に気づくことが出来るのだろう。今までに2000名を超えたこの地への訪問者たちは、一応に、新しい自分に少しだけでも出会うことができたのではないかと思っている。その場に立ち会うことができるというのは教師冥利につきることだと、心の中で今年も確認することができる良い体験だった。

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