いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2017.10.30

涙と共に種を蒔く者

この秋の校外授業も無事に終了することができた。初めての中3オーストラリア修学旅行、そして高2韓国修学旅行も、それぞれに充実した手応え豊かな経験となった。

 私は高2の韓国旅行に同行したが、今年ほど事前に心配させられる要素が重なった年も少なかったのではないかと思われる。連日報道され続けた北朝鮮を巡る情勢は、今にも軍事衝突が起こるかもしれないという見出しが紙面やネット上に踊り、不安が掻き立てられていたように思われる。心穏やかではいられないような空気もあり、保護者の中にも心配があったように思われる。直前まで参加を逡巡する家庭もあった。高2の生徒の中に障害や様々な課題を抱えている生徒もいて、実施には様々な配慮も必要であった。そして出発直前には、季節外れの台風の日本列島直撃が 想定され、集合およびフライトが極めて難しい状況に直面させられた。

 しかし、崇義女子校の生徒たちとの出会い・再会を中心とする心の交流を願っていた生徒たちの思い、教師たちの願いは、それらの困難と思える状況を乗り越えて、非常に充実した5日間を送ることを可能にしてくれた。保護者の協力のもと、朝早い集合時間に全員が揃い、フライトを予定していた羽田~金浦便以外の全ての午前中の航空機が遅れや欠航という状況の中、台風の風も急におさまり、生徒たちを乗せた飛行機は時間通りに離陸し、ソウルに到着することができた。そして5日間、生徒たちは実に輝いていた。たくさんの出会いを経験し、明るい笑顔で毎日を過ごした。ソウルの人たちの表情は穏やかで、暖かいもてなしと親切な対応に触れることで、生徒たちは、人と人が交流することの意味とリアリティを実感することができた体験となった。

 「涙とともに種を蒔く者は、喜び叫びながら刈り取ろう。」旧約聖書の時代の人々の驚きと喜びは、民族の体験として語り継がれてきたが、心配や苦労が多い分、得た喜びは大きかったのではないだろうか。とりわけ学年教師たちの思いは、できるだけ全ての生徒にこの体験をして欲しいと願い細かい配慮を含めて準備してきただけに、参加を願っていたほぼ全員が参加できて、学年として一つの共通体験ができたことは大きな喜びであったように思う。

 校外学習を体験することは、生徒たちにとっての学校生活の思い出をつくるとともに、成長の一つの節目となるように思う。わずか数日のために長い時間をかけて準備し、努力し、お互いに少しずつ我慢をし、力を出し合い、達成感を味わっていく。その繰り返しが成長を促していくのだろう。単なる観光旅行ならば、変更や縮小は可能だろう。しかし、苦労の末に得られる達成感を得るためのプロセスこそ、人を成長させるエネルギーになる。そのことを実感として知り尽くした教師たちは、犠牲を払いつつもそれが実現できるように努力を続けているのだろう。そこに「教育的価値」を持つことの幸いが、教師の醍醐味であるのだから。そんな教師たちの思いに支えられて、今年も無事に校外授業が終了したことを心から感謝したい。

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