玉川聖学院 中等部・高等部

いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える

いつまでも残るもの<br>~この時代の教育を考える

今年も読書会が始まった

保護者のための人間学講座を開始した年、一年間の学びを終えた保護者の方々から、もう少し深く一緒に学びを続けたいとの要請があり、翌年から「人間学読書会」を、講座開催日の午後に設け、色々なジャンルの本を一緒に読み、皆で分かち合うという形で、読書会が始められ、今年で9年目を迎えることとなった。現役の保護者のみならず、卒業生の保護者も継続して数多く参加されている。皆、学びたいという欲求を持っておられる方々が集まっている。振り返ると、70冊以上の本を読んできたことになる。自分にとっても良い学びの機会となってきた。

立場が変わった今年度は、折に触れてこの読書会での学びをここで報告していきたいと思っている。せっかくの良い学びを参加できなかった方々にもお分かちしたいと思うことが多いからだ。5月の読書会では、昨年亡くなられた日野原重明氏が最後に書かれていわば遺言的な著書である  『生きていくあなたへ』〜105歳 どうしても遺したかった言葉〜(幻冬舎)を読んだ。
105歳、身近に死を意識している著者は、「対話をしたい」と語る。大事なことは、人から人にしか伝わらないことを私たちは知っているが、著者も同じ思いで、人として直接言葉を残したい、手渡したい、そのために対話をしたい、と冒頭に述べている。この本は読者に直接語りかけるつもりで、最も大事だと思う事柄を伝えたことが記されている。高2人間学の「祖父母聞き取り」と同じような、日野原先生の思想のエッセンスが詰まっている小さな本だと思い、丁寧に読んだ。

第1章は、死は命の終わりではないことを語っている。彼自身、正直にまだ経験していない死を恐ろしいと感じているが、死への恐怖より今生きていることの喜びにつながっていると語っている。生と死は連続線上にあり、先に死んでいった人(妻)の姿が、死によってリアリティを増していく不思議を語っている。(私自身も確かに数多くの先生の著書に触れてきたが、先生の死後に読んだこの本には不思議なリアリティがあるのも事実だ。)また、生きることは未知の自分を知ることで、105歳になってやっとわかってきたことについても言及している。80歳頃の自分は可愛かったと語る言葉は、なんという叱咤激励であり慰めであるのだろう。

第2章は愛することについて語っている。家族、友達、医学、人生の様々な経験の中で、愛について語っている。亡くなる3年前に出会ったベー・チェチョルさん(テノール歌手)との交流の場面は、柔らかい感性をいくつになっても持ち続けられた日野原先生の本領が発揮されている箇所だ。

第3章はゆるすこと。ここでもゆるすことは難しいと語るとともに、「恕(ゆる)す」〜相手のことを自分のごとく思う心を働かせること、ゆるしは自分のための行為であることを語っている。また、ハイジャック事件(よど号事件1970年)の飛行機に乗り合わせ、ハイジャックの当事者となった経験から、生かされた命を人のために用いるという人生観に変わった経験を語っている。

第4章は「大切なことはすぐにはわからない」とタイトルが付いているが、わからないことの中にも「神の計画があること」を信じていると語っている。直接は死を意識した言葉なのだろうが、同時に105年の人生の総括とも言うべき言葉と受け取った。「人生にはだれもが必ず経なければならない時期があって、それぞれの時期ごとに神の計画があることを分かってほしい」ということを、P.トゥルニエが『人生の四季』で語っているように、長い人生の中には悲しみや理不尽と思える状況に出会うことはあるが、そこにある慰めと奇跡とに遭遇してきたことを証ししている。

第5章は「未知なる自分との出会い」というタイトル通り、常に新しい自分と出会いたいと思う心を持つことで、自己発見の連続の日々を送ってきたことを述べている。病も苦難も逆境も、自分を作ってくれる。そして見えなかったものが見えてくる。日野原氏の生き方のエッセンスは、「感動」を感じ取る心=若さを保ち続けたことだろう。いつも、今の自分の可能性について考えてきたことが記されている。究極の自己肯定感を持つ姿がここにあった。最後に「何度も苦難に遭うが、苦しみが大きければ大きいほど自己発見もある。それを超えて自分の時間を人々に捧げる。その喜びは苦難と比較して大きなものと信じ、ありのままに、あるがままに、キープオンゴーイングだ。」と締めくくられている。

今回参加した方々は、大変貴重なものを著者から、直接受け取ったような感想を、みなで共有した。何か大きなものを手渡されたような空気が会場に満ちていた。私も元気をもらい、まだまだ未熟な自分だが、これからの可能性を、直接教えていただいたような、そんな気がした午後だった。

「あなたの希望を分かち合うために、あなたの時間を使うことが愛です。」(日野原重明)