今年度も保護者のための人間学講座と人間学読書会が始まった。もう講座は9年目になり、読書会も8年目となった。5月最初の会にはそれぞれ30名近い参加があり、熱心に学ぶ姿に触れることが出来た。講座では、「人生の季節の中で」(いのちのことば社)をテキストとして、誕生から死までのそれぞれの発達段階に起きてくる課題について考え、それを乗り越えることで本当の自分に近づいていく過程について学んでいく。高2生徒の人間学の授業の保護者向け講座としている。今年から公開講座として広く参加者を募ることにしたが、受験生や卒業生の保護者も参加していた。
午後の読書会は月に一冊ずつ、本を一緒に読むことを課題としている。7年間に合計60冊以上の書物を読んできた。お子さんが卒業しても継続して学んでいる方々も多く、互いの意見交換をする時間も充実しているようだ。今回は岸見一郎著「アドラー人生を生き抜く心理学」(NHKブックス)を読んだ。近年話題の多いアドラー心理学のエッセンスを学び、とりわけ教育や子育てとの関わりでアドラーの「物の見方」を学ぶ機会となった。
「未来は変えられる」とのアドラーの言葉は参加者の心に響いたようだった。確かにフロイト流の精神分析学の隆盛により、過去の出来事がその人の意識や行動を支配し、未来を決定すると考えることが科学的であると思われるようになった現在、自らの意志によって未来を作り変えることができるという主張は、励ましと希望を与える。アドラーは、自分の自己概念、世界像、自己理想により形成される自分のライフスタイルを変えることで、未来は変わってくると主張した。
新年度が開始して1ヶ月が経過したが、学校の中でも「自分を変えよう」と決意して行動や生活が大きく変わってきた生徒たちの姿が目立っている。ほんとうに学校生活の中に区切りや節目があることは幸いなことだ。そして自分のライフスタイルを変えようとしている生徒たちを「勇気づけること」が私たちの仕事なのだろう。上からの叱責や賞賛で子供たちと接し、能力を評価することで生徒と関わるのではなく、寄り添うことと仲間になることを通して勇気を持たせたい。この春になって「心の一新によって自分を変えなさい」との聖書の言葉のリアリティを実感する光景が見られるのは嬉しいことだ。この生徒たちに大きな希望を感じている。
子供たちの育ちにとって、親の存在は最も重要な役割を担っているのだろう。そうだとしたら、戸惑いの思春期を迎えている子どもたちを支えるためには、親自身を支えていくことが大事なことなのだろう。少なくとも、教育方針に賛同して入学してきた家族全体を支援していくセンスを、私立学校は今後ますます磨いていく必要があるように思う。熱心に学ばれている方々の姿の背後にある思いに共感しつつ、今年も人間学講座が始まった。良い学びの年としたい。