いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2018.11.06

9年目の読書会

「はじめに音楽を流します。ここに着くまでにいろいろの音や声の中で緊張していた心と体を緩めて、ゆっくりと静まって、心の中に隙間を作ってください。」
保護者のための読書会や思春期セミナーを開始するに当たって、いつもこのような時間を持ってから会を始めている。この「心の隙間づくり」こそ、忙しい現代人にとって、自分を取り戻すための知恵になるのではないかと思う。毎回流す音楽(あくまで私の個人的に趣味で、安らぎをあたえてくれるクラシック音楽)も、参加者には好評のようだ。
この心に隙間をつくることで差し込んでくる光や吹き込んでくる風を感じることができる時間が共有されている。その後、読書会ではレジュメに沿って内容を紹介していくが、保護者(卒業生の保護者の数が多くなったが)と共に本を読み、著者の主張や感性に共感したり、啓発される時間を持つ。この読書会を始めて9年目となった。気づくとすでに80冊以上の本を一緒に読んでいることになる。私にとってはその準備のために読み込み、レジュメを作る作業を含めて、二度三度と一冊の本を味わうことができるのが幸いだ。日頃忙しくしていると、知識や情報を得るため、あるいは教材研究や論文作成のために多読している自分がいる。したがって、書かれている内容が、自分が日頃考えていたり感じていたりすることと共鳴すると、納得したり、嬉しくなったり、新鮮な驚きを感ずるものの、他は読み飛ばす底の浅い読書体験に終わることが多い。
しかし準備して文章を幾度か味わって見ると、それぞれに本の中で著者の人格に触れることがある。何か対話をしているように身近に感じられる瞬間もある。読書会ではそのように共鳴できた箇所を語ることで、参加者たちの心の思いと交流をしていく。そんな繰り返しをずいぶん長い間継続してきた。誠実な参加者たちの思いを毎回の感想カードに中に見出し、分かち会う時間は持つことは十分な時間を持てないが、それぞれの手応えを感じとっていく。そんなひと時を毎回持てるのは私にとっても幸いなことだと思う。
読書会の最後に、今月の美術展を紹介する時間がある。このことに励まされて、私は月一回、興味が持てる展覧会会場へと向かっていく。人は強いられないと動かないのかもしれないが、動くことで豊かな時間を創造できる。感想を語ることでそれが自分のものになっていく。贅沢な時間が与えられていることを感謝している。(話を聞くだけでも構いませんので、いつでもこの午後のひと時にいらしてください。みなさんを歓迎します。)2018年度のこの後の予定は以下の通りです。
11月16日 鎌田 實「人間の値打ち」(集英社新書)
12月 7日 末盛千枝子「『私』を受け入れて生きる」 (新潮社)
1月18日 中井久夫「いじめのある世界に生きる君たちへ」(中央公論新社)
2月 8日 石川憲彦「みまもることば」 (ジャパンマシニスト社)
3月 8日 H.S.クシュナー「私の生きた証はどこにあるのか」(岩波現代文庫)

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