- 2019.03.29
記憶にとどめたいこと
「1年の長さの感覚は、年齢分の1の速さに感じるものだ」とフランスの哲学者アランはいったが、本当に一年が加速度的に早くなっているように感じる。学校の中にいて区切られた時間の中で生活をしているからそう感じるのだろうと思っていたが、現場を離れても時間が飛び去るように過ぎていくと言う感覚は変わらなかった。一年が経つのは本当に早かった。
この感覚は洪水のように溢れている日々の情報量の多さがそう感じさせるのかもしれない。毎日のニュースに心を留めていると、次から次からと押し寄せるニュースに翻弄されてしまい、どんどんあらゆるものが消費されていく。新しいものの到来が、今あるものを「過去のもの」と変えていく。興味を引く情報はある賞味期限を終えると捨て去られていく。そんな情報の氾濫の中に身を置いていると、あらゆるものが忘れ去られていく。大きな事件や事故は、時々メモリアルとして取り上げられるが、日常的な意識のつながりは断絶していることが多い。東日本大震災も各地で起きている虐待やストーカー事件も、私たちの日常から遠ざかっていく。
それ故だろうか、今起きていることも本当には深く考えることができなくなっているのではないか。一過性の問題として忘れられていくのであるなら、十分に議論したり対話したり、解決のための話し合うことに意味を感じなくなっているのではないか。昨今の政治に対する無関心はこの国の将来を危ういものにするのではないかと心配になる。本当の意味での「公共」にあり方を考えていくのも、教育の責任であるようにも思われる。
現在、東京都写真美術館で大石芳野氏の「戦禍の記憶」という写真展が行われている。戦争の世紀と言われた20世紀の世界各地で起こった戦争の傷跡は決して過去のものではないことを伝えてくれる。戦争は終わるが傷ついた人々の生活は続いていく。沖縄、ヴェトナム、コソボ、カンボジア、スーダンと、戦争や内乱で傷ついた人々の眼差しを通して、私たちに訴えてくる共通のメッセージが伝わっていくる。それは「忘れてはならない」という語りかけだ。大石さんは写真を通して彼らの肉声を伝えているように思われた。
私たちの国は戦争がなかった「平成」という時代を終えようとしている。次の時代にも決して戦争があってはならないことを戦争の記憶を抱えて生きているその眼差しは伝えている。この眼差しに答えるために私たちには何ができるのだろう。新しい学習指導要領では、これからの学校教育の方向性として、「主体的対話的な深い学び」が必要なことが記されている。アクティブラーニングという言葉だけが一人歩きしているようだが、この学びでは、一人一人が正解を鵜呑みにするのではなく自分の頭で考えることが期待されている。そうだとしたら教育現場では、物事に流されずに自分で考えることの重要性を伝えていき、生徒との対話を通してこのことを伝えることが求められているのではないか。少なくとも記憶にとどめることの大切さを、身を持って伝えていくことの必要性を強く感じる年度末だ。
いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~
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