いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2018.07.23

良き師、良き友、良き書物

長い間学校の責任を持っている時には気づかなかったことが、この4月からの生活の中で幾つもわかってきたように思う。その中の一つは、こんなにも恵まれた人との環境の中で働けたということだ。支えてくれた多くの「祈り手」がいること、豊かな関係性の中にある協力者がいること、教育に賛同して全面的に支援し、後援者となった保護者や卒業生の存在、様々な応援をしてくれる心ある人たちがいることに改めて気づいている。振り返ってみると、日常生活に追われ、毎日あたふたと動き回っていた時には、実感として全体像を掴むことができなかったが、俯瞰する立場に立つことで鮮やかに見えてきたことがある。教育共同体として学校があることを再確認させられている。
外部からの応援団の一人に工藤信夫先生(精神科医・平安女学院大学名誉教授)がいる。ポール・トゥルニエの読書会を通して出会って以来、個人的にも25年近く魂の交流を続けさせてもらっている。この間、玉川聖学院の「事例研究会」や保護者の読書会などに頻繁にきてくださり、良いアドバイスやサゼスチョンを与えていただいた。現在は大阪在住だが、クリニックを休んででも駆けつけてくださっている。良い交わりをもたせていただいていることに感謝している。
今月はこの先生を講師に「第3回思春期セミナー」を保護者対象で行った。今年度からは始めた新しい会合だが、今回も50名近い保護者が集まって、講演を聞き、互いに意見を交換し、互いの子育てについて考える時を持った。先生は、親が子と関わる時に、「守・破・離」の段階があり、「小さい時には守るという関係が期待されるが、思春期になると親のできることは少なくなり、関係性が一旦破れるような出来事が多くなっていく。そしてやがて、親から離れていく」という発達のプロセスを歩んでいくのが、健全であり、その変化を通して親自身が学び、気づき、関係性を変えていくことの大切さを、「思春期の子の親ができることは、下宿屋のおばさんのように温かい食事と安眠の場を提供することですよ。」と、時にユーモアを込めて、真摯に語られた。玉川聖学院の保護者を応援したいとの思いが伝わってくるセミナーだった。感想カードには、自らの関係性の持ち方への反省と共に、元気をもらったことが多く記述されていた。
工藤先生は日頃こんなことを語られている。「人生の後半の生き方を考える時、『良き師、良き友、良き書物』を持つことが、その人の人生を決める。志を高く持ち、学ぼうとする意欲を持つ時に、この出会いが可能になってくる・・・。」
振り返ってみると、自分には数多くの良き師がいる。良き仲間がいる。そして様々な良き書物と出会えている。人生の後半を歩むのにふさわしい環境が与えられてきたことを心から感謝している。そして、私自身も誰かのために、そのような場所を提供するため、何かできることをしていきたいと、今、心から願っている。

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