いつまでも残るもの
~この時代の教育を考える~

  • 2017.10.10

金木犀の香りを運ぶ風を感じて

秋晴れの爽やかな日に庭の椅子に腰掛けて本を読んでいると、金木犀の芳しい香りが秋風に運ばれてきた。毎日の喧騒から離れるほんのひと時であったが、贅たくな時間を持つことができたように思う。普段は自然に接していても、季節の風情を味わうことが少ないように思うが、少し外に出ることで世界が広がっていくことを感ずる。

 日比谷の出光美術館で、江戸琳派の酒井抱一と鈴木其一の展覧会が行われている。以前は日本画を堪能する機会は少なかったが、年齢とともにその味わいが少しずつわかってくるような気がした。とりわけ自然の変化を愛でる作者たちの気持ちが伝わって来る。四季の微妙な変化をとらえて、素早くそしてさりげなく描写していく手法は、油絵を中心とする西洋画の画法と違って、それもまた魅力的なものであった。

 抱一の「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」は、ひと月ごとに風情と味わいが違っていて、日本の自然を味わい尽くすことのできる楽しい屏風絵だった。十分に時間をかけて楽しむことができた。この美術館の所有している作品である故か、またいつか見ることができるというゆとりを、会場の空気の中にも感じることができた。日本画が好きになりそうだ。

 外に出ていくことで私たちの意識は広がっていく。しかし、あまりに多くの情報が氾濫する中、どの情報を選択するのかを迷っているうちに、社会全体がかえって内向きになっていくのではないかと思う。若いうちには何でも貪欲に見たり聞いたりして「体験すること」が重要な課題だと思うが、人々は選択肢の多さに疲弊してしまって、自ら行動することが億劫になってしまっているのではないだろうか。

 本校の生徒たちは皆、好奇心旺盛のようだ。学院祭でも視野を世界に広げて世界とのつながりを意識した企画を数多く展示したり実行したりしていた。パラリンピックへの関心も広がった。先週はプランジャパンの企画に参加して、自分たちの主張を携えて話題の東京都知事に面会する機会を与えられた。今週は地元自由が丘の商店街が賑やかに開催した「女神まつり」にもフェアトレードの啓蒙を兼ねて参加し、ボランティアで協力をした。

 外に出ることで発見できることは必ずある。気づいたらそれを心に刻み込む。体験を経験化していく作業を続けることが、彼女たちにとっても大きな財産となるだろう。これから求められる「生きる力」とは、自ら主体的に関わることを通して見えてくる問題や課題と向き合う人生への態度であり、正解は一つではないにしても、自らの解決策を模索していく力であるのだろう。もちろん土台となる基礎的な知識は必要であり、それを身に付けるためには、地道な毎日の努力を積み重ねるしかないのだが、「目を外に向けること」によって、視野に入り聞こえてくるもの、芳しく香ってくるものが必ずある。バランスを持って両方を経験させていきたい。生き生きと小さな子どもたちの世話をしている生徒たちの中に芽生えている自己肯定感を大事にしていきたい。

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